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日本演劇教育連盟 刀禰佳夫氏の感想より
「小さくて、強くて、優しい竜になりたい」という子ねずみのつぶやきが心に沁みました。今世界は財力と暴力が支配する時代になってしまいました。戦争ばかりでなく、ごく日常的に頻発する犯罪も弱者を狙って起きています。そうした風潮の中で子ども達も日々、不安の中で生活しているのだと思います。感受性の強い優しい子どもほど、大きなストレスを抱えて生きているのだと思います。そんな時代だからこそ、自分の身近な大切な仲間を次々に鷹やワシに殺され、恐れおののく子ねずみが、「強くて優しい竜になりたい」という思いを持つことがとても納得できるのです。子ねずみは大なまずに出会い、きつねに騙されそうになりながら、ついにその思いを遂げて、仲間を守る事が出来るようになります。安心して森で生活出来るようになり、沢山の野ねずみ達が、楽しそうな笑顔を見せるラストシーンに出会えて、観客の子供達も、ほっとして暖かい気持ちになれた事でしょう。
かわせみ座の劇を見るのは「バーレルセルの森にて」に続いて二度目ですが、その美しい舞台美術にまず、心が和みます。それにひとつひとつの人形が愛らしく、実に微妙な心の動きまで表現してくれます。今回もパネルを使った野ねずみの群れ。マリオネットとして操られる子ねずみやきつね。柔らかい素材で作られた大なまず。素で演ずる人間。(動きが舞踏のようでおもしろい)それがひとりの語り手の語りに合わせて見事なアンサンブルを見せてくれます。特に水中に没した時の子ねずみの浮遊したような動きに感心しました。出語りの語りに少し癖があり、初めは少し違和感を覚えましたが、劇が進行するにつれて、それが劇の世界にマッチして、独特の雰囲気を醸し出していました。出使いの人形師たちの動きも洗練されて美しく、すみずみまで神経の行き届いた繊密な舞台に夢のような一時間を過ごさせてもらいました。
今後、どんな舞台作りが続くのか、これからもかわせみ座を注目していきたいと思っています。 |
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演劇と教育 2003年 10月号掲載 編集・日本演劇教育連盟 発行・晩成書房
SPOT LIGHT スポットライト かわせみ座 『竜になった子ねずみの話』
作・原案=冬木 演出・人形美術・舞台美術=山本由也 音楽=松本雅隆(ロバの音楽座)
妥協嫌う創作姿勢に魅力(堀内照雄-大阪・公務員)
『竜になった子ねずみの話』は、鳥や獣に仲間を殺された弱虫の子ねずみが、仲間を救うために強くて優しい竜になろうと旅に出る話。人間の姿をした竜から一枚のうろこをもらい、山奥の湖をめざす。うろこをなまずや狐に奪われるが、弱虫の子ねずみは果敢に湖に飛び込んで取り返し、強くて優しい竜に変身する。上演時間は約一時間。
かわせみ座は山本由也、益村泉夫妻の二人からなる人形劇団であり、人形でしか表現できない世界をめざす。山本が制作する人形は、キャラクターにふさわしい動きが可能となるよう、糸操りや棒遣いの操法も取り込んで、すべてかわせみ座オリジナルのものである。子ねずみは愛くるしく、細やかに動く。また、変身後の竜は子ねずみの雰囲気を残していた。
宙を自在に動き、かつぴたりと静止できる人形が製作可能なかわせみ座は、竜が主役の作品がずいぶん多い。益村は人形操作に加え、得意とするバレーの動きで人間の姿をした竜を演じ、また片腕に付けた翼だけで鷲を表現した。
かわせみ座は、作品に応じて協力者を頼むが、充湖すすきが舞台上で一人語りを担当、冬木は脚本及び主役の子ねずみと竜を操る。ロバの音楽座の松本雅隆による古楽器の音楽に照明も加わり、今回もぜいたくな作品に仕上がっていた。
作品づくりで妥協を嫌うかわせみ座の作品は、大人にとっても<子供以上に>魅力的であると私は思っている。
今回は、最初に小品の『仔熊のニーシカと木馬』。足元のおぼつかない木馬はシンプルな糸操り人形、仔熊はメカニカルで自在に操作可能な人形と好対照である。二個の箱に、仔熊と木馬が入っている。熊は、自力で出られない木馬の箱に入り込み、木馬を箱から出すが、自分は頭から落ちて気絶する。木馬に顔をなめられた熊が気付いた瞬間に、助ける側と助けられる側との一方向的な関係の中に、双方向の友情が通い合った気がした。
セリフはまったく使わず、人形の丁寧な動きだけで、観る者の想像力を喚起させ、人形の心の動きを細部まで理解できたような気分にさせてくれた。
繊細な動きと表情に感じるやさしさ(阿部英子-東京・保育士)
私と、かわせみ座との出会いは、山本由也さん益村泉さんの可愛いお子さんが保育園に入園してきた時です。そしてはじめてマリオネットタイプの人形劇を見る機会ができました。
一回目の公演は、『まぬけな竜の話』でした。ファンタジックで、夢のような美しい舞台でした。生きているような竜の動き、可愛い女の子のマリオネット、これは子どもだけではなく大人も十分に楽しめる内容でした。その後、テレビの「たけしの誰でもピカソ」に、かわせみ座の人形が紹介されて、人形の巧妙な作りや動きに見ている人、誰もが感動していました。
今回の『竜になった子ねずみの話』も、子ねずみの表情、動きはなんて繊細で可愛いのでしょう。夜も寝ないで製作に励んでいらっしゃる山本さんの魂が込められているのだと思います。そしてたくさんの可愛いねずみたちとのコントラストも楽しかったです。ひとりがたりの充湖すすきさんの声と古楽器も良かったです。
私が人形たちの次に、気に入っているのが、益村さんのバレリーナのような振り付けと動きです。衣装も小物使いもとてもステキで見惚れてしまいます。
強くてやさしい竜になりたいと頑張る子ねずみ、愛とやさしさに溢れ、自然をモチーフにしていて、見ている私の心をホッと暖かく包んでくれました。
この人形劇を、たくさんの子どもたちに見せてあげたいなと、思いました。 テレビやゲームが氾濫している時代、人間の心が、どこかに置き去られているのではと、常日頃心痛めているのですが、かわせみ座の人形劇のような、生の声、生の人形とのふれあい、ストーリーのやさしさを、体験させてあげられたら良いですね。皆が暖かい心を感じたら、今起きているような、悲惨な事件など起きないでしょう。人間は、愛や思いやりを与えられなければ、人に愛や思いやりを与えることはできないと思います。人間は自分のことを好きになってはじめて人にやさしくなれると最近つくづく考えます。
かわせみ座の人形と劇には、思いやりと、家族の愛が詰まっています。これからもたくさんの子どもたちに、そして大人にも、愛と夢を与えてください。またかわせみ座の公演を見たいと思います。 |