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瞳 hitomi 〜演じる群像〜 no.2
2003年3月18日発行 マリア書房
共鳴する鼓動「かわせみ座」豊かなアイデアと技術から生まれる独創的な作品群
【人形作家】山本由也×益村泉
〜作家・操演者・人形〜 三者の鼓動が共鳴し合い、幻想の世界にワープする
聞き手/カバサワ貴子 撮影/大須賀博 ポートレイト撮影/小林 淳
人形創作のきっかけから、かわせみ座の設立に至るまで
山本:子供の頃に見た人形劇とは違う、人形を介して何かを表現するということを知ったのは、高校時代に辻村ジュサブローさんの里見八犬伝を見たときです。子供向けの「人形劇」とは違う。大人をも魅了する人形表現に感動しました。高校を卒業して、日本の伝統的な糸繰りの人形劇団「竹田人形座」に入りました。人形をつくり、その人形で演じるという精神を学びましたね。人形劇は、人間主体の演劇と違い、空を飛んだり、空中を浮遊したりという人形にしかできない表現が沢山あるんです。その魅力にのめりこんでいったんですね。
独立して、かわせみ座を設立した理由は?
山本:劇団の中にいると、やはり人形の制作や演目にどうしても制限が出てきます。自分のつくりたい人形を作り、やりたい演目を作る。自分の人形劇に対する概念を具現、追求したかったのです。常に舞台の中心が人形である事、舞台で人形が個として存在し、個々の人形が美術的にも優れ、キャラクターに合った独自の構造と表現力を持っている事。そして舞台表現、人形美術共にオリジナルである事。こんなふうに徹底的に細部まで神経を行き届かせるには、自らが劇団を発足するしかなかったんですね。
益村:かわせみ座の活動は、まだ由也さんと出会うまえから知っていました。私も、幼少期からバレエを習っていたので、自然と舞台で自分を表現する道を歩んでいましたから。また、母が人形を創作していたこともあり、子供の頃から人形に触れる生活をしていました。その頃は、まさか自分がかわせみ座で、人形操演をするとは思ってもみませんでしたけど(笑)
山本:人形の操作方法なども、棒使い、手使い、糸繰りなど様々ありますが、各キャラクターの自然な動きを可能にするために、糸操りや棒使いの技法を取り組んだり、全く独自のシステムと操作方法を考案しつづけています。そのほか、舞台美術や仕掛け物で独自のシステムを次々に考案しました。自分の劇団だからこそ、やりたいことが実現できるんですよね。
お二人の出会いと、夫婦でやっているメリット
益村:1993年に人形劇や舞台関係の人が集うフェスティバルのようなものがあったんです。その時に、舞台表現についての考え方や理想を話し合ううちに、価値観がとても合って・・・出会ってから結婚に至るまでの時間はかかりませんでした(笑)。
山本:かわせみ座は、演目によって外部の演出家や演奏家をお願いすることもありますが、基本的には全て夫婦だけでやっています。彼女と結婚するまでは、一人でしたから、雑用の分担ができて少し楽になりました(笑)
益村:それでも、二人だけでやるということはとても大変で、10数名のスタッフ、キャストを指揮して、通常の移動舞台の設定に5〜6時間はあたりまえ。『まほろばのこだま』という作品に関しては6〜7時間もかかるんです。
山本:一人でやっていた頃は、ミュージシャンと組んだり、邦楽の方々と共演したり、ダンサーやパントマイマー、俳優と共演したりと、常に新しい境地に挑戦していました。ただ、その頃の活動がマニアックすぎるという意見も多かったんです。彼女とやるようになってからは、より幅広い層に受け入れられる作品が作れるようになりましたね。
益村:人形劇というのは、どうしても創作人形に比べてアート的な評価が低く見られているのが現状です。でも、私たちはそうした常識を大袈裟ですが覆したいと思っています。人形のクオリティーはもちろん、その人形が最も輝けるように操ることで造形表現の芸術の域に一石を投じることができればと思っています。
山本:海外へ公演に行く機会も増えたよね。私たちはどちらかというと、内に籠もってコツコツとやるタイプ。彼女は対人面でも積極的にスタッフやお客さんをフォローしてくれるので助かっています。
益村:お互いに性格のタイプが違うということもプラスになっている気がしますね。由也さんは開幕のギリギリまで人形の調整をしている。私は、一人でもくもくとストレッチをして幕が開くのを待つという状況。自分たちのそれぞれのスタイルで舞台に責任を持つという姿勢が、二人でうまくやるコツではないでしょうか。
新しい人形劇の在り方に挑戦するかわせみ座。そして今後の展開は?
山本:かわせみ座の演目は、人形はもちろん、ストーリーや舞台美術に至るまで全てがオリジナルです。それが、私たちのプライドでもあります。近年の作品では、2000年に初公演をした『まほろばのこだま』が、一つの新しい挑戦でしたね。演出家にアニメーション映画監督としても有名な高畑勲さんを迎えて、日本の心の原風景を感じさせるストーリーを作りました。
益村:世界に日本を紹介したい。その時に、日本人として何が表現できるかということから生まれたんです。テーマは、かつて豊かな自然に恵まれていた頃、人間と大自然に栖むもののけたちは共存していたということ。壊れゆく環境へ警鐘を鳴らすことができればという思いで公演しています。
山本:また、2002年には外部の劇団の演出家を交えて『残照』(原作・ホフマン「砂男」)を公演しました。操演者も役者として参加し、今までかわせみ座でやってきたものとは、全く違うスタイルでやってみました。賛否両論でしたが、私は作品を単一化したくないし「〜流」という言葉でまとめられるような、カラーを出したくはないんです。その時々で、作品にあった違った雰囲気を見せられたらと思っています。
今後の活動展開は?
山本:台詞なしで表現する長編を何タイプか作りたいと思っています。ガラス細工のような繊細な、人形劇の真髄のような、大人向けの純粋なファンタジー作品。そして、それとは対照的な作品。怪奇と幻想、エロスを取り入れて、「サロメ」を題材に・・・と、おおまかなイメージは出来ているのですが。まだ、何年後になるかはわかりません。作品にあった演出家を探しているところなんです。
益村:作品はどんなタイミングで完成するかわからない。じっくりとアイデアを寝かせながら、私たちは日々操演者としての稽古に励み、他の芸術にも触れながら、新作を生む努力を続けているのです。
山本:人形を操るということは、表現法があざとくなってはいけない。例えて言うなら、能のような表現法とでも言うのでしょうか。微妙なニュアンスを観客に感じてもらえるように、表現力を高めていかなければならない。どうかこれからも、楽しみにしていて下さい。 |
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