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人形劇団【かわせみ座】
たしかな目(国民生活センター情報誌) 5月号(1996年)掲載

ことばはいらない
人形の想いを伝えるだけ

山本由也

 1月、若者に人気の劇場で、初めて人形劇が上演された。マリオネタリー・パフォーマンスと銘打たれたその公演に詰めかけたのは、20代から50代くらいの大人たち。 ユニークな人形を見事な糸さばきで操り、喝采を浴びていたのが、山本由也さんである。「日本では人形劇というと、どうしても子供の為のものと思われがちなのですが、大人の為に作られたものもあるんだということを知ってほしいんです」山本さんが人形に興味を持ち始めたのは中学生のころ。「NHKの人形劇で『八犬伝』や『真田十勇士』を見て、技術的にも作品的にも奥行きのある人形劇があるんだということを知りました。それがきっかけで自分でも作ってみたい、動かしてみたいと思うようになったんです」

 高校卒業後、いくつかの人形劇団で勉強を積んだ後、'82年に独立。かわせみ座を創設する。「8年くらい勉強させてもらったんですけど、自分の作りたい人形を作って、動かしたいスタイルで動かしたいという欲求がどんどん膨らんできて・・・」山本さんの遣う人形は、大きさも形もさまざまだ。 体長が1メートル以上もある大きなロバから、手のひらに収まってしまうほどの小さな妖精まで。 どの人形も、見ているだけで飽きない魅力がある。「今ある人形劇の多くは、遣い手がセリフをしゃべって、作品のストーリー性で見せる類のものですけど、私はできるだけセリフに頼らないで人形の想いを伝えたいんです。人形であることの魅力、物体であるが故の動きのおもしろさを生かすようにと考えています」 確かに山本さんの人形は、意味やストーリーがなくても、動きを見ているだけで十分楽しめる。またその中には人形と呼んでいいのかどうかわからないような不思議なものも多い。

 縁日で売っていたバネのおもちゃや、羽根をつなぎ合わせて作ったヒトデのようなオブジェなど、何だこれはと思うようなものが、山本さんの手によって命を吹き込まれ、生き生きと動き出す。その鮮やかな手さばきはまさにマジックと呼ぶにふさわしい。「アイデアは身の回りのあらゆる現象から生まれます。例えば枯葉が落ちる様とか、芋虫が這う姿とか、SF映画でいん石が宇宙を漂うシーンとか、いろんなものを見たり聞いたりしていくなかでキャラクターのイメージを膨らませていくんです。」しかしそこから人形を完成させるまでがたいへんだ。思いついたキャラクターをデザインし、ただ組み立てればいいというものではない。キャラクターに合った動きを考え、その動きができるためには、どういう操作法がいいか、内部構造はどうすればいいかなど…ミリ単位の力学計算が始まる。そして実際に作られた人形を操りながら、改造に改造を繰り返し、何年もかけて一体の人形ができ上がる。「作るというよりは、むしろ育てていくという感覚ですね」

 今日本では、純粋に人形を遣ってみたいからという理由で人形劇を始めたという人は少ない。子どもが好きで児童劇をやっていたからとか、ほんとうは役者になりたかったのだけれどダメだったとかいう理由で人形劇を始める人が多いそうだ。「でも私はもともと子どものために人形劇を始めたわけじゃないんです。純ファンタジーがやりたいんです。ファンタジーというとお子様ランチ的なとらえられ方をしますが、ほんとうはもっと繊細な、薄いガラス細工でできたようなものなんだと思うんです。そういう微妙な表現を受け入れてくれるのは、子どもよりもむしろ大人の方なんだと思うんです」まもなくハンガリー公演に旅立つ。ヨーロッパでは、人形劇は舞台芸術の一つのジャンルとして確立されている。「目の肥えた観客たちからどういう評価を受けるのか試してみたい」山本さんの挑戦は、日本の舞台芸術に新たな風を吹き込むことだろう。