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人形劇団【かわせみ座】
益村泉の香港レポート
香港アートフェスティバルツアー

2002年8月3日、North District Town Hallにて

人形劇団【かわせみ座】香港レポート 今日で香港に入って、4日目。今回のツアーの最終公演「Dreams in a Toy Box」を、19:30に迎える予定だ。9:00AMよりNorth District Town Hallに仕込みに入ったが、問題が多々発生。仕込みは難航している。問題とは、例えば、バック幕(大黒幕)の後ろを、芝居の途中で上手から下手に通り抜けしなくてはならないが、それが出来ないと言う。禁止されているので、フェス側の責任問題になってしまう、とか。照明のフェイダー(操作するレバー)が20回路ある、と聞いていたのが、実際には10回路しかなかった、とか。etc,etc.一番大変なのは、フェス側のスタッフと意志の疎通を取ることだ。かわせみ座サイドで「ここは通らないで!」と言ったり「O.Kが出るまで作業は始めないで!」と言っているのに、劇場側のスタッフはなぜそういっているのか理解できないのか、話が全員に伝わっていないのか、その通りにしてくれない。そのせいで、由也さんはいつもに増して神経質になり、額には青筋がピキピキピキ・・・・。昨夜のバラシの時にも人形の糸が切れ、足が骨折してしまった。今朝も、朝から劇場入りしているものの、照明の仕込みと、舞台を整備(舞台袖に置かれているピアノだとかスタンド、絨毯、椅子などをどかしてもらったり、黒いリノリュームを床面に張ってもらったり)する事で時間がかかっていて、由也さんや私が人形の仕込みが出来るようになるのは、たぶん昼休み後になりそうだ。それでも、日本で公演する場合の、約2倍の仕込み時間を取っているので、まあ何とか開演までには間に合うだろう。

人形劇団【かわせみ座】香港レポート 公演の準備が整い、上演できるようになるまでは大変だが、公演自体はとても楽しいものになっている。香港に大人たちは、まるで子供のように目を丸くしてお芝居を楽しんでくれるし、子供達も明るく元気がよい。惜しみない拍手や歓声に、生きる活力みたいなパワーを感じる。公演終了後のアフタートークで、河童のつららの人形解説をし、その後、観客との質疑応答をする。質問なんて、たいして出ないだろう・・・・、と思っていたら大間違い。大人も子供も、次から次へと質問を出してくる。「人形を作るのに、どのくらい時間がかかる?」「海外公演は他国にも行った?」「人形の中はどうなっているの?」子供からの質問も侮れない。「人形のキャラクターを考えるのに、どのくらいの時間がかかるの?」「作品はどうやって考えるの?」「声はどうやって出してるの?」後から後から質問が出てきて、司会者が「もうこれで終わりにします」と言うまで手が上がり続ける。これまで行ったヨーロッパやアメリカの公演とは、またひと味違った国民性みたいなものを感じる。


 私たちが滞在したホテルは香港島と呼ばれる島にあり、21階建てのホテルの窓からは、海とそのむこうに九龍の町並みが見える。運河のような海には早朝から夜中まで絶え間なく船が行き来をしている。小さなボートから漁船。連絡船から大型の豪華客船まで、様々な色と形をした船が幾重にも行ったり来たりする眺めは、見飽きることがない。九龍の高層ビルの夜景も、日本の夜景とは違った華やかさがある。青緑色のライトが水面に映って不思議に美しい。

写真 今回、何よりもラッキーだったのは、かわせみ座のフェス側の担当者のゾーイが、日本語が堪能なことがった。かつて、1年間日本に交換留学生として留学していた経験の持ち主で、日本人と変わらないぐらいちゃんとした日本語がしゃべれる人だった。おかげで私たちメンバーは、仕事以外の話もたくさん出来た。 香港は中国変換の後、大陸からどんどん人が入ってきて、人口が増え続けているそうだ。建設中の新しい高層ビルがあちこちにある。でもゾーイの話だと、仕事はほとんど無いらしい。香港の物価は日本と同じくらい高い、と聞いていて覚悟したいたが、実際なはそうでもなかった。観光地に行けば観光客向けの高い店がたくさんあるらしいが(まだ行っていない)、食事など、地元の人が行く安くて美味しいところに連れて行っていほしいとお願いしたら、本当に安くて美味しかった。しっかり食べて飲んで、日本の半額ぐらいだ。さらに、冷房もついていない屋台などは、もっと安いだろう。同じ仕事も無く、大変な生活をするならば、活気のある香港の方が暮らしやすいのかもしれない・・・・。

写真 この短期間のツアーで気になったのは、ひどく効きすぎている冷房のこと。どこに行っても建物の中はギンギンに冷えている。室内と外気の温度差が激しくて、着るものの調節が大変だった。体に悪いし、エネルギーの無駄使いだと思うが、香港の人に言わせると「20度以下にしないと空気がきれいにならない、空気が無くなる」(?!)とのこと。さらに、バスや車のアイドリンク。止まっている間に冷房が切れるのがいやなのか、エンジンをつけっぱなしで平気だ。ゴミの分別もない。マクドナルド、セブンイレブン、Kマートはあちらこちらにあるし、やたらとゴミの出る食材があるが、これらのゴミはどうやって処分しているのだろうか・・・・。それから、今回の公演の4ステージの内の、3ステージは19時30分開演だった。しかし、”香港タイム”で時間に遅れるのが平気らしく、だいたい15分遅れの19時45分スタートになっている。上演後、アフタートークがあるので、終演は21時を過ぎる。観客の中には、5〜6才の幼児もいたりするが平気らしい。一昨日、仕事が終わってホテルの近くの食堂で乾杯をした。私はすいちゃん(同行した3歳になる息子)が疲れていたので一足先にホテルに戻ったが、他のメンバーの話だと、23時を過ぎて子連れの家族が食事に来たそうだ。ゾーイに「午前中にお芝居を見せることはないの?日本はファミリー対象の場合は午前中の上演もよくあるよ」と聞くと「人が全く集まらない」と答えた。”香港タイム”はいったいどうなっているのだろうか・・・。

写真 それから、文化予算。
 今回の公演で驚いたのは、客席が50%しか埋まっていないことだった。香港の知人に聞いたところ、フェスのどのカンパニーの作品も50%ぐらいしか集客できていないそうだ。せっかく日本から来たのにもったいない、とか残念だ、とかは勿論あるが、日本の場合だと50%しか集客できない、イコール赤字。イコール次回の公演の可能性が無くなる、と言う図式になるが、香港では違った。政府からの文化予算が多い為50%集客でも平気らしい。予算が付いて勿論羨ましいが、本当にこのようなやり方で文化が根付くのだろうか、と考えると、心配でもある。(はたから見ると、改善の余地はたくさんあるように見えるが、香港のスタッフ達は、中国返還後いろんな事が変わって、やりずらくなったと言っていた)私は、初めてアジア圏で仕事をしたが、香港の人たちはみな親切で、友好的だった。相手が何を考えているのか解らない、とか、受け入れてもらえるかしら、と言った不安は全くなかった。何より、観客のみんなが、かわせみ座のショーをとても楽しんでくれたのが、嬉しかった。(まだ終わってませんが・・・)